Walzerは、Posnerなど新自由主義的競争論の問題点の一つ、全面的商品化(universal commodification)との関係で興味深い議論を展開する。Walzerは、財、地位、名声などの社会財を社会構成員に分配する場合、正義にかなった分配の主体、手続、基準は、社会財が存在する領域ごとに異なるとして、社会保障、貨幣と商品、苦役、自由時間、教育、政治力など11の正義の諸領域ごとに多元的な原理ないしルールを構想する。本研究との関係で重要な「貨幣と商品」の領域においては、「禁止・制限される交換」のルールが存在し、人間、政治的権利、刑事的正義、言論・出版・集会の自由、徴兵・陪審といった公共的義務からの免除特権など、貨幣との交換が禁止される14のリストを列挙するが、Walzerはそれ以上の制限には必ずしも積極的でない。すなわち、貨幣と商品の交換は原理的に相互利益の関係にあり、商人の成功、独占は非難するに当らず、問題は「貨幣と商品」の領域で形成された力が政治力、教育、自由時間といった他の領域に溢れ出すことを防止するために、いかにして壁を築くことが出来るかという「防壁の戦略」を提示する。 これに対し、Hovenkampのシカゴ学派など新自由主義的競争論に対する評価はアンビバレントである。なぜなら、Hovenkampは、反トラスト問題についてウォーレン・コートのリベラリズムとシカゴ学派のいずれを採るかと迫られたならば、躊躇することなく後者をとると明言しつつ、しかし、シカゴ学派はすべての問題に答えてきたわけではなく、幾つかの解答は誤っていたとして、「新古典派市場効率モデル」を内在的および外在的に批判するのである。
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