本研究の背景には、アメリカ反トラスト法のシカゴ学派など新自由主義的競争論に対する批判があった。すなわち、新自由主義的競争論は、売手と買手が合意する限り、あらゆるモノを自由に売買してよいという全面的商品化という問題点をもつばかりでなく、行為の望ましさや違法・合法の判断を売手余剰と買手余剰の統計である社会的総余剰の増減によって行う富の最大化原理が分配の不平等や個人の権利侵害を無視するという功利主義に伴う問題点を免れなかった。 本研究は、これに対して、M.WalzerやM.J.Radinの理論によって、全面的商品化に対抗して商品化の限界を画すること、すなわち市場の外延の限定が必要であることを主張した。その場合、地位不可譲性、コミュニティ不可譲性、社会的禁止による不可譲性、市場不可譲性という不可譲渡性の種類ごとに、全面的商品化の禁止、無償譲渡のみの許容、不完全な商品化のいずれによって律すべきか個別具体的に決定するという方法を参考とすべきであろう。 また、J.Rawlsなどの規範的正議論を検討した結果、富の最大化原理に対抗して、市場の内部で問題となる諸権利の優先関係を設定すること、すなわち市場の内包の権利論的構造化が重要な課題として浮かび上がった。特に問題となるのは、市民、労働者の生存権、生命・健康権、中小企業の財産権、独占財産であるが、この順序で政府規制が権利保障的規制と独占財産制限的規制として行われるべきものと考えられる。 「平等主義的市場経済の法構造モデル」は、以上の市場の外延の限定と内包の権利論的構造化をめざすものであり、こうしたモデルの一応の確立によって現代日本の行政改革や規制緩和に対する規範的評価も可能となるといえるのである。
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