日本の独占禁止法や経済法の領域で1990年代以降顕著となった規制緩和を正当化する理論が密接な関連性を持つアメリカの新自由主義的競争論(反トラスト法のシカゴ学派やPosnerなどの法と経済学)の基礎理論には、行為の違法性を社会的総余剰(売手余剰と買手余剰)の増減によって判定するという功利主義的側面と、(特にPosnerの理論に関してだが)売手と買手が合意する限り、あらゆるモノを売買してよいという全面的商品の傾向がある。 このような新自由主義定競争論への対抗・代替理論が検討しなければならない課題は、全面的商品化に対して商品化の限界をどのように設定するか(市場の外廷の限定)、功利主義的な「富の最大化原理」に抗して権利論をいかに練り上げるか(市場の内包の権利論的構造化)などである。市場の外廷の限定に関しては、Radinのいう地位不可譲性、市場不可譲性などごとに、商品化の全面的禁止、無償譲渡のみの許容、不完全な商品化のいずれによって律すべきかを決定するという方法を参考としながら判断がなされるべきであろう。また、市場の内包の権利論的構造化については、Rawlsの「正義論」によって、正義の2原理に従った権利の優先関係の設定と格差原理の制度化がなされねばならない。すなわち、市民・労働者の生存権、生命・健康権などの基底的人権、商工自営業者・農林水産業従事者などの人権としての財産権、中小企業の人権でも独占財産でもない財産権、そして制度保障としての独占財産に優先関係を設定し、政府規制がこの優先関係を規律しつつ、さらに競争者間で自然的才能の成果を分配する制度的試みを確立することが「平等主義的市場経済の法構造モデル」には必要である。 翻って、日本の規制緩和についても、以上のような市場の外廷の限定と内包の権利論的構造化の観点から、具体的な緩和措置の法的評価が行われるべきであるということになる。
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