本研究は、経済犯罪の捜査と訴追に特有な刑事手続上の問題の存否・所在と法解釈論・立法論上の問題点を検討することを目的とした。このような観点からの包括的検討は、いまだわが国では行われていないため、第一に、このような研究領域において進展の認められる諸外国(英・米・独)についての関連資料を収集・分析して、比較法的検討を行った。第二に、わが国の問題状況を正確に認識・把握するため、関連する文献・資料の収集・分析を合わせ行った。わが国についての具体的検討項目は、以下のとおり。1)多量の証拠書類や磁気記録を捜索・押収する経済事犯に固有の特色に伴う法解釈上の問題、2)被疑者・被告人の一般犯罪に比した特殊性に由来する問題(捜査段階からの充実した弁護活動、被疑者・参考人の取調べと供述確保をめぐる問題など)、3)検察の訴追準備と公正取引委員会、証券取引等監視委員会、税務官庁等の行政機関の調査活動および告発との相互関係。この結果平成7-8年度を通じて得られた研究成果の概要は、以下のとおりである。 1.比較法制度とわが国の文献分析の結果、わが国の検察・捜査実務において、経済犯罪の立証に不可欠な被疑者ないし参考人の供述確保について、将来伝統的取調べのみでは立ちゆかなくなるとの危惧感が強いこと、これに対して、とくにアメリカおよびドイツの供述強制ないし参考人出頭強制の制度が立法論として参考になり得るであろうとの見通しを立てることができた。今後の継続的研究のうち、立法・制度論の中心課題となろう。 2.アメリカ法研究の副産物として、捜査機関が収集した証拠書類の被告人・弁護人側への開示、ならびに捜査機関の情報収集活動からの会社組織内関係文書の法的保護の問題に触れる論文を執筆した(研究発表覧・参照)。 3.大量の書類や磁気記録の捜索・押収に関連する理論的な問題を検討した論文を執筆した(研究発表覧・参照)。
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