この研究(「ネパール憲政史研究」)では、ネパールの近代化・民主化の過程を憲政史の観点から考察した。 ネパールは南アジアの小王国であり、立憲君主制の1951年憲法の制定以後も長らく前近代的な非立憲的統治が続いてきた。たしかにネパール政治は宿命的な困難を抱えている。第一に、ネパールは最低開発国(LDC)の一つであり、近代化・民主化のための経済的・社会的条件がほとんど整っていない。第二に、ネパールは国土面積は日本の3分の1、人口は約2千万の小さな国家であるにもかかわらず、30以上の民族をもつ世界有数の多文化国家であり、国民統合は容易ではない。第三に、ネパールはインドと中国に挟まれた内陸国であり、内政・外交に対する地政学上の制約が少なくない。しかし、いかに困難であろうと、ネパールが政治の近代化・民主化を避けて通ることはもはや不可能である。事実、1980年代末の東欧民主化の波はネパールにも及び、90年の「民主化運動」(90年革命)を勝利に導き、その成果の法的確定として90年憲法を成立させた。ネパールは、90年革命以降、90年憲法の理念の実現に努力してきたし、またこれからもその努力を続けざるを得ないであろう。 本研究は、このようなネパールの近代化・民主化過程を解明するため、(1)ネパール憲政史文献目録の作成、(2)ネパール憲法史の考察、(3)ネパール立憲君主制の分析、(4)ネパールの諸政党の憲法観の解明、を中心に実施した。この分野の研究はまだ蓄積が少なく資料的な制約も大きかったが、研究を通して、ネパール現代政治の構造と課題のいくつかは明らかになったと思う。これらの点の一層の解明は今後の研究の進展に待ちたい。
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