本年度は、まず実現可能性のある消費集合を有限個にすることにより確率分布の集合を有限次元にし、この場合のノンパラメトリックな検定を検討した。これにより、この問題の2つの性質が明らかになった。一つは、図などによりこの問題の構造が明らかになったことである。つまり、効用関数の性質(線型性、非線型性、加法性など)の差により無差別曲面の形状が異なることを利用して、いかなる検定方法を使うべきかを明らかにした。簡潔に要約すると、無差別曲面が超平面になる場合は分離定理による手法が使え、その法線ベクトルを効用関数の値と解釈できる。また、無差別曲面が超平面ではない場合には分離定理は有効ではなく、2項関係を使った手法が有効になる。つまり、効用関数の線型性が失われるため法線を求めそれが効用関数になるという手法は使えない。したがって、2項関係から直接効用関数を構築する必要が生じる。 もう一つは、有限次元の問題にすることによりベルマン方程式を使って現実のデータによる検定が可能になったことである。つまり、ベルマン方程式が有限個の線型等式、不等式系になり、この解が存在することが効用関数の存在のための必要な十分条件になる。さらに、解が存在するかを基底変換アルゴリズムでテストできる。 これらの結果の一部は、「動学的最適化行動のノンパラメトリック制約」というタイトルで『現代経済学の潮流1998』(東洋経済新報社)に掲載される予定である。
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