研究のまとめの年として、以下の課題を中心に研究を行った。 1.モデル分析1:社会資本の活用者の視点から、それぞれの社会資本から得られる便益測定のためのモデルを構築し、シミュレーションを行った。一つは、年代という属性で活用者を分類し、個人的便益と社会的便益を考察した。いま一つは、どこまで自立して生活を営むことができるか、個人の能力属性にもとづいて活用者を分類し、考察した。このようにして、高齢者を分析モデルに組み入れることができた。 2.モデル分析2:本年度はとくに供給サイドからも社会資本もとらえ、民間資金と公的資金にもとづく社会資本供給の効率性と公平性とを検討した。さらに、社会資本投資のタイミングも考慮に入れ、社会資本整備のタイミングの重要性を指摘した。 3.歴史的な展望:高齢者の暮しのなかで、歴史的にみて、どのような形の生活様式があったかを検討した。とくに米国における高齢社会を、地域的な相違を念頭に置きながら明らかにした。一つは、伝統的な東海岸における都市型の高齢者の生活様式である。すでに出来あがった都市の機能をすべて活用しつつ、集合住宅として住まう形。いま一つは、西部、かつてカリフォルニアに見られたもので、何もないところから、高齢者の必要を見たすコミュニティを造成するという形である。後者のいわゆる高齢者村があまり成功をみなかった理由を詳細に検討し、人工的に造成されたコミュニティの脆弱さを浮き彫りにした。 4.社会資本整備と高齢者の生活:従来、生産基盤の社会資本整備は生産面のコスト節約を進めたが、高齢化社会へ向けての社会資本整備によるコスト節約効果は、生活者とりわけ高齢者の生活費節約として実現するはずである。これにより、高齢家計の必要生計費に変化が生じ、さらにそれは生涯生活設計にも影響を及ぼすことを明らかにした。
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