(1)中国税関関係資料(国会図書館、東洋文庫、東京大学東洋文化研究所、京都大学人文科学研究所、山口大学東亜経済研究所等に所蔵)から、近代中国における伝染病の流行状況を、主として統計資料から分析した。こうした資料にもとづき、中国各地の人口動態に占める伝染病の意味づけ、さらには出生率、死亡率の推移と伝染病の関係を分析した。こうしたデータの蓄積によって、各地域の伝染病流行の概要を理解することができた。但し、この作業はなお継続中であり、今後もこうした基礎的な作業を継続する必要がある。 (2)外務省外交史料館所蔵の『各国ニ於ケル伝染病報告雑纂』を整理、検討した。この作業によって、(1)において収集した資料、データをより精密なものとすることが可能になった。また、統計的な資料からは得られない同時代人の記録を整理することにより、伝染病の流行が中国社会に与えた影響を多面的に検討することが可能となった。但し、この作業も継続中であり、来年度において本格的な分析を行なう必要がある。 (3)以上の基礎的な作業を行いながら、伝染病関係の文献資料を検討した結果、近代中国においては、1920年代から本格的に着手された社会事業、さらには検疫活動を検討する必要のあることが明らかとなった。中国の検疫制度の確立は、国際連盟の援助を受けながら進められ、各地域の近代化=社会変容に大きな意味を持っていた。
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