1.国内外における状態依存型利益請求権および資本構成の理論に対して再検討を行い、経済全体(マクロレベル)と企業(ミクロレベル)における異なる利益請求権のリスク負担上の性格とその均衡を分析した。この分析を通して以下のことが明らかになった:経済発展の段階によっては経済全体のリスクとその負担者の性格が違ってくる。低い発展段階においては、投資機会が豊富で全体のリスクが低いわりに、資本蓄積が不足で国民のリスクに対する回避の度合いが高い。このとき、資本の動員と集積が重要で、リスクを金融機関や企業集団を通して配分した方が効率的である。これに対し高い発展段階においては、投資機会が少なくなり、経済全体のリスクも高くなるが、資本蓄積と国民のリスク負担能力も高水準にある。このとき、資本配分と運用の効率化が重要となり、証券市場を通してリスクを配分した方が望ましくなる。また、デリバティブ(金融派生商品)と金融イノベーションのリスク配分における役割とその限界をも分析した。 2.上記の理論的帰結の強靭さを検証するために、日本と米国の証券市場における利益請求権構造の違いをデータで確認し、実証分析の方法と手順を考案した。そのうえ、その違いを規定すると思われる要因を選定し、その要因を従属変数とし、そのデータの収集、整理と入力を行い、本研究の次のステップである統計分析の準備作業に取りかかった。
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