1.研究の整理と実証分析の準備: これまでの研究を整理し、実証研究の準備を行った。この段階で以下のことを明らかにした。資本市場の効率性は、ミクロレベルの効率性すなわち個別投資の効率性と、マクロレベルの効率性すなわちリスク配分の効率性の両方に規定される。前者と後者はそれぞれ私権制度の完備度と投資経路および情報開示の完全度に規定される。資本市場は後者の効率性を高める反面、前者の効率性を幾分弱め、私権の希薄化をもたらしている。この私権希薄化効果を抑えるためには利益請求権の請求可能(使用権委譲)期間、有限責任制と証券の譲渡可能性を適宜に設計し組み合わせることが重要である。 日本の証券市場の歴史に照らすと以下の結論が得られた。戦前における株式上場抑制と財閥企業の形成が私権希薄化に歯止めをかけたが、主として富裕層で行われた定期取引が過剰流動性を招き経済発展の攪乱要因となった。戦前の株式持ち合い形成にはやむを得ない面があるが、証券恐慌の発生とバブルの発生はそれぞれ私権希薄化抑止制度不足下の過剰流動性追求と情報開示ルール整備の遅れに起因するものである。 2.実証研究 日本の証券市場と企業の利益請求権構造について実証分析を行った。その分析の結果はおおむね理論に合致し、モデルには一定の説明力があった。つまり、資本の蓄積水準と投資家のリスク回避度が相関関係にあり、これらは証券市場のあり方と企業の利益請求権構造に影響を及ぼすということである。
|