昭和戦前期の日本の社債市場を対象として、デフォルト(債務不履行)した社債と回避できた社債とを分けた要因の析出の作業を行った。業績不振であったからデフォルトしたという説明は、あまりに単純である。本研究では、ファイナンス理論に基づき、株主のデフォルト選択権を中心とした理論モデルを展開し、統計的に分析した。 株式会社年鑑(大阪屋証券)等の資料を用いて、資本移動と社債の利払い、償還期とを照合し、デフォルト回避の行動が採られたと推測される社債を選別し、デフォルトした社債と比較分析した。デフォルト前およびデフォルト回避前の株式の超過収益率を計算し、株主が合理的決定をしたかどうかを検定したところ、合理的行動仮説が妥当する可能性が高いことが判明した。 第2段階の検証として、デフォルト群について、デフォルト後の債務整理交渉のプロセスについて合理的行動仮説が当てはまるか否かの検定作業を、株主の所有割合、債権者の結束度、担保の有無などを説明変数とした統計的研究も行った。ただし、具体的な計量モデルに関して、いくつかの可能性がまだ残されているため、最終的な結論には至っていない。また、産業間の違いをどのうよに解釈するか等、追加的な調査が必要な問題も残されている。結果が明白な事例については、株主総会議事録・営業報告書・社史等を検討することにより、計量的分析の裏付けの作業を進めている。
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