本研究では、戦前の王子製紙の支店、工場の膨大な資料の整理と、データの集計、分析検討を行った。本研究の成果と独創性は、戦前期の原価計算実務とその展開をあきらかにし、初期の原価計算の背景には綿密な物量計算が行われていた実態を明確にした点にある。 樺太の王子製紙の工場の資料は中部、気田工場は明治後半から大泊、豊原、野田工場等については昭和3年からその他は昭和8年から資料が現存すると、工場が期末に本社に提出した「決算報告書」資料の様式は各工場とも細部の差はあるがほぼ同一の様式を備え、昭和8年、16年に様式に変化が生じる点も各工場とも同一であることがわかった。 資料の細部の検討は、大泊工場の資料の昭和3年から19年3月までの資料について行い、論文を執筆し公表した。平成6年度におこなった林業会社である王子製紙樺太分社研究をうけ、樺太分社の払出資料との突合を行った。樺太分社の決算資料のなかのパルプ原価計算表、抄造高表、使用材月別累計表(単位石高)が各製紙工場の原価数値、操業の概要の数値、各工場の操業の概要中調木室の項目の数値(石高)と完全に一致した。さらに帳簿組織を検討し、財務会計資料と原価資料の結び付きを明かにし、同工場の原価計算、操業管理方法の全貌を把握した。その結果、戦前の王子製紙では操業管理のために綿密な物量計算がおこなわれ、この物量計算は会計の価値計算のために不可欠であることがわかった。 この発見は現代、会計システムを構築するさいに物量データを取り入れる必要のあることの示唆として重要である。なお研究期間内に、日本郵船の資料に明治以降の支店管理の内部資料が発見された。戦前・戦中期の支店管理技法の研究という点で本研究目的と合致するので、補助金の一部を用いて資料整理と研究を行い論文を執筆した。日本郵船と比較することで、王子製紙の実務を相対化し、またその時代の支店工場管理の共通点を知る視座を提供した。
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