研究概要 |
本研究では,電磁力と弱い力の統一理論(標準模型)を精密に検証するために,原子でのパリティ非保存実験を行ったが、それのみならず、パリティの破れのような離散対称性の破れの実験的検証は,標準模型を越える新しい物理が発見できる可能性がある。そこで、まず、原子の光学遷移におけるパリティ非保存実験において、近赤外線領域に共振波長をもった原子として、鉛原子とタリウム原子のパリティ非保存の実験を行った。波長が長いほうがパリティの非保存効果が大きいので,可視領域よりも赤外領域のほうが望ましい。また、タリウム原子や鉛原子の重核原子は,パリティの非保存効果が大きく出るので,これらの重核原子の1.28μm近辺の遷移を調べた結果、標準模型とよく一致することが解明できた。さらに、いろいろなエネルギー領域での遷移におけるパリティの破れを調べ,標準モデルとの精密な検証を行うことは,標準モデルの中核をなす電弱理論を確実な実験的基礎の上に置くものとして重要な意義を持つと思われ、本研究で、もっと波長の長い原子の超微細構造間でのマイクロ波領域でのパリティ非保存実験を押し進めた。パリティ非保存実験から得られたR値から、Zボゾンの質量やアナポールモーメント定数、アイソスピンパラメータSが推定できる。高エネルギー実験から求められたZボゾンの質量は、パリティ非保存実験と比較でき、よく一致した。また、アナポールモーメント定数の理論値と、パリティ非保存から推定した実験値とほぼ一致した。最後に、アイソスピンパラメータSは、高エネルギー実験ではダイレクトに分離して求められないが、原子のパリティ非保存実験では分離して求めることが可能であり、標準模型を越える新しい物理は,アイソスピン保存パラメータSがゼロでないと,それを越える可能性があるが、パリティ非保存実験では、Sは、誤差範囲内でゼロに含まれて、今のところ標準模型はsafeであった。
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