研究概要 |
平成7年度における研究実績としては以下のとおりである.1)水月湖の年縞堆積物に認められる菱鉄鉱量と方解石量の変動をみると、海水の侵入頻度は8,500年前以降7,000年前に向かって、約500年周期で増加・減少を繰り返しながら大局的に増加している.もし、三方断層の垂直変移などの基盤変動がほとんど生じないとすれば、これらの変動は海水準変動を指示する.鬼界アカホヤ火山灰層堆積(7,325年前)以降、海水準が上昇し降水量が増加したが、現在より7,000年前〜6,800年前、5,500年前〜5,000年前、4,400年前、3,600年前、3,000年前および1,800年前の6時期には海水準が低下した.2)イライト結晶度と良い相関をもって変動する石英/イライト比率(福沢ほか、1995)を用いて年縞堆積物から過去8,830年間の中国大陸の乾湿変動を検出した.中国大陸が湿潤(温暖)化する時期は7,000年前と1,000年前である.3)過去2000年間についてみると、8世紀から12世紀にかけては温暖であり、「中性温暖期」を指示し、16世紀から18世紀にかけては寒冷〜冷涼であり「小氷期」を指示している.14世紀末から15世紀初頭にかけては温暖であり、「小氷期」の始まりは15世紀末と判断された. 平成7年度では、当初目標とした水月湖と東郷池の堆積物分析のうち、両者ともほぼ完了することができた.水月湖の成果ついてはその一部を公表できたが、東郷池の成果の公表については現在努力中である.また.水月湖周辺の湖岸段丘調査や埋没材の採取も行えたが、年縞堆積物による気候変動との対比はまだ完了していない.平成8年度は全力をあげて完了する予定である.研究遂行上、年縞自体がもつ問題(1.年縞と現在との関係、2.年縞の同定や年縞計数の誤差、3.年縞の消失・付加など)が明らかにされた.この問題意識に藻付いて、水月湖・東郷池以外の年縞堆積物の分析を平成8年度に行うこととした.
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