高圧溶解度測定のための装置のチェックのために、塩化アンモニウムと塩化セシウムの水への高圧溶解度を300MPa(約300気圧)まで測定し、高圧溶解度の再現性などを確認し、±0.5%以下で測定できることを確認した。一方で、塩析法によりリゾチームの結晶化の条件を調査し、平衡時間、最適温度、および最適塩濃度を求めた。その結果(1)リゾチーム初期濃度により得られる結晶状態が正方晶や斜方晶に変わることが明らかになり、過飽和度を低く設定する必要があること、(2)溶解平衡に到達するのに、塩化アンモニウムや塩化セシウムでは1〜2日であるのに、リゾチームでは数十日要すること、が明らかになった。これらの現象は、リゾチーム分子自身の構造が巨大で複雑あるため、塩化アンモニウムや塩化セシウムのように単純に結晶化されず、周囲の環境に微妙に影響されることを示唆している。 さらにこれらの結果を基に200MPaまでの高圧力下で溶解度を測定し、(1)リゾチーム結晶の析出速度は加圧とともに小さくなること、(2)溶解度は、常圧の7mg/mlから200MPaでの20mg/mlまで加圧とともに上昇すること、が明らかとなった。この溶解度の加圧による増加は、塩化アンモニウムや塩化セシウムの溶解度で代表されるような加圧による現象とは逆の傾向であり、蛋白質のような巨大分子の結晶化の機構が、塩化アンモニウムや塩化セシウムのような単純な分子の結晶化とはかなり異なる様相を呈している可能性を秘めていることが明らかとなった。
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