電子スピン共鳴スペクトルの検出手段として光吸収を用いることにより、CWマイクロ波検出より高速で発光検出より測定対象の広いと考えられる測定法を開発することを試みた。本装置のためにはマイクロ波共振器内に励起光、モニター光および透過光を通過させうるフローセルを開発する必要があった。本研究により、単芯光学ファイバーをモニター光導入及び透過光導出に使うセルを開発できた。また、光を通過させるためにサイズが必然的に大きくなることに伴う、適用溶媒に対する制限(高い誘電率を持つ極性溶媒が使えない)も有機の極性溶媒なら使用可能な程度に抑えることができた。本セルと本研究費で導入した分光器を用いて発光検出の磁気共鳴を試みたところ、低磁場領域において明瞭な磁場効果を観測できたが、共鳴領域においては信号を検出できなかった。これは、測定器のS/N比の問題とマイクロ波出力によるもので、前者はある程度解決した。従って光吸収検出においても同様の感度が期待できる。後者については現状では克服できないのが、本研究により実現可能であると判断できたので今後CW増幅器やパルス増幅器を使用することで解決したい。 極性溶媒である水が使用できないので、一般に大きな磁場効果があり、同様に大きな磁気共鳴信号が期待できるミセル溶液が使用できないため、装置の開発に平行して均一溶媒中の反応をいくつか検討した。その結果、トリフェニルホスフィンの光分解反応において、重元素を含む物質としてはこれまでにない極めて大きく、磁場依存性においても新規な磁場効果を見いだし、報告した。今後この反応について本測定法を適用する予定である。
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