油の中である種の界面活性剤は集合体を形成し、水を内側に水滴状に包んで溶解することができる。これを逆ミセルという。本研究ではこの逆ミセルの中で酵素による核酸の合成に関する研究とその周辺の基礎的研究を報告する。 逆ミセルを形成する典型的な界面活性剤、Sodium Bis (2-ethylhexyl) Sulfosuccinate (AOT)の逆ミセル/イソオクタン溶液の構造をNMRスペクトロスコピーと電子顕微鏡、中性子小角散乱により次の新しい点を明らかにした。水の少ない領域(Wo<2)の逆ミセルは不定形で堅く互いに独立して存在し、逆ミセルの水も結晶水の挙動をとる。一方水の多い領域では(Wo=20)では、個々の逆ミセルの大きさは増大するが、柔らかくお互いに水を介して強く相互作用し、クラスターを形成している。 次にこのAOT逆ミセル中でPolynucleotide phosphorylase (PNPase)によるADPの重合比を行い、この酵素反応がいわゆる通常の逆ミセル中での酵素反応と異なり、特異的な現象であることを見い出した。 1)この酵素反応はAOT逆ミセル系においてWo=20の過度の逆ミセルの大きさと自由水、結合水の割合いが重要である。 2)この酵素反応により生成した重合体、Poly (A)は酵素とともに沈殿し、沈殿した状態で安定して酵素活性を示す。これはガラス界面と逆ミセル溶液相の固/液界面において酵素による重合比であり、この固体界面に付着し増殖するPoly (A)を原子間力顕微鏡で直接観察した。 3)この現象は陽イオン性、非イオン性界面活性剤逆ミセル中では酵素反応は進行するが、沈殿現象は見られなかった。 以上より、AOT逆ミセル逆ミセル系のPNPaseによるADPの重合比は固/液界面の新しい核酸合成反応として、生命化学及び化学工学にて発展の可能性を示した。しかし鋳型を使うDNA polymeraseに関してはこのような現象は認められなかった。
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