近年、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いた器官形成の制御機構に関する研究がさかんに行われるようになってきた。しかし生殖細胞(卵と花粉)の形成過程の分子機構に関してはまだあまり多くのことはわかっていない。このような状況の中で本研究では卵細胞の形成過程、特に体細胞分裂から減数分裂が誘導されて卵細胞が作られる過程の解明を目指して実験を進めている。昨年度までに花全体、雌しべ、および葉から調製したRNAを用いたディファレンシャルディスプレイ法によって、雌しべで特異的に発現している遺伝子のPCR産物(A-10-1、A-13-2、C-1-6、C-9-1、C-12-1)を確認した。本年度新たにそういったPCR産物(A-20-8、C-20-13、C-21-6、C-21-10、C-21-22)5種類を確認した。これらのうち9個に関しては pCR-script と呼ばれるプラスミッドベクターを用いてクローン化することに成功し、順次、塩基配列の決定を行っている。花全体、雌しべ、葉から調製したRNAそれぞれからRT-PCRを行い、ナイロンメンブレンにブロットした後、各クローンより準備したプローブをハイブリダイズさせ、それぞれの器官における発現量の違いを確認した。多くのものは花器官でより多く発現しているが、C-20-13の遺伝子は葉では全く発現せず、花器官のみで発現していた。CR-20-13に関してもまだ塩基配列が決定しておらずその産物の機能は不明であるが、これらの遺伝子の機能や発現調節の制御機構を明らかにできれば、花の器官がどのようにして形成されるかを知る大きな手がかりとなるのではないかと考えられる。
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