(1)捕獲調査:集団サイズの異なる複数のニホンジカ個体郡を対象として、捕獲調査をおこなって遺伝子試料を採取した。採集地と標本数は、岩手県五葉山で78個体、宮城県金華山で56個体、鹿児島県種ケ島、沖永良部島および屋久島で計42個体、長崎県対馬で14個体であった。捕獲個体の性別、体重、推定年齢、妊娠の有無等を同時に記録した。 (2)地域個体郡の遺伝的多様性の評価:個体郡の集団サイズと遺伝的多様性との関連を明らかにするために、捕獲して遺伝子試料をえたニホンジカ個体郡を調査対象として、DNAの変異を指標にして個体郡内多様度(intrapopulational diversity)を測定した。RAPD法をもちいて、それぞれの個体郡の遺伝的多様性の定量化を試みた結果、ニホンジカ個体郡の遺伝的多様性と集団サイズには負の相関があることが明らかになった。 (3)個体郡内部構造の解析:RAPD法とDNAフィンガープリント法を併用して、単一個体郡の内部に、遺伝学的に区画化された部分構造が存在するか検証した。この調査においては、すでに繁殖率、生存曲線、群れ構造、家系構造などがある程度解明されている金華山島のホンシュウジカ集団を主な調査対象とした。その結果、これまで明らかにされてきた(南正人、高槻成紀ら、未発表)、金華山島ニホンジカ個体郡内部にみられるグループ構造(主として母系から構成される4つのグループ)ごとに、グループ内部の遺伝的多様性は低下していることが、明らかになった。このことは、金華山島のニホンジカ個体郡が、家系を中核として形成された数個の集団の集合体であることを、遺伝学的データから裏付けるものと考えられる。
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