本研究は、細胞質表層微小管に異常をきたしたシロイヌナズナの突然変異体の分離と細胞質表層微小管に局在する情報伝達因子の免疫学的固定を目的として行っている。前者に関しては、現在、変異体を作製中であり、まだ具体的な成果は得られていない。一方、後者については、微小管にヒトのCdc42タンパク質に対する抗体が反応することを見いだした。Cdc42タンパク質は、細胞極性の制御に関与する分子量約25kDのras類縁低分子量GTP結合タンパク質である。酵母から線虫、ショウジョウバエ、ほ乳類にいたる広範囲の生物群に存在するが、植物での存在は報告されていない。市販の抗ヒトCdc42抗体を用いウェスタンブロット法により、トウモロコシにこの抗体と反応するタンパク質が存在するか否かを調べた。その結果、2つの(約50kDと約25kD)のバンドがこの抗体に反応することがわかった。蛍光抗体法によりトウモロコシの根端細胞を観察したところ、サイトソルと微小管構造とに蛍光が見られた。微小管に沿う蛍光は細胞周期を通じてどの微小管構造にも観察され、レーザー顕微鏡により詳細に観察すると、微小管自体の蛍光と異なり、微小管に沿って点在するパターンを示した。次に、抗体に反応するタンパク質がいかなるものであるかについて検討した。分子量的に25kDのタンパク質は、植物のCdc42タンパク質である可能性がある。一方、50kDのタンパク質は、Cdc42タンパク質がチューブリンと弱い相同性を示すことから、分子量50kDのチューブリンがこの抗体に反応している可能性が考えられた。しかし、二次元電気泳動ウェスタンブロット法によりこの抗体が認識するのは、α、βいずれのチューブリンとも異なることが明らかとなった。現在、トウモロコシのcDNA発現ライブラリーから本抗体を用いて25kDと50kDのタンパク質をコードする遺伝子をクローニングしている。
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