今年度は、二匹のオス赤毛ザルを同一ケージに入れた際のストレス反応を血中のACTHおよびコルチゾールを指標として測定し、優劣関係との関連を調べた。また、単独時と同居時にCRH負荷テストを実施することで、優劣の間で下垂体の反応性に差があるかどうかも調べた。以下に、結果をまとめる。 1.始めての二時間の同居に際しては、優位サルで、血中のACTHおよびコルチゾールに一過性の分泌の上昇がみられるのに対し、劣位サルにおいては、これが認められない。また、二日続けての同一実験では、優劣の差は消失する。 2.六日間同居させた後に二匹を分離すると、優位サルではACTHの一過性の分泌上昇がみられるが、劣位サルではこれが認められない。 3.特定の二匹のサルについて、長時間にわたり血中テストステロン値と、順位関係、ストレス反応を追跡したところ、血中テストステロン値の比の大小と、優劣関係が関連していて、同時に、ストレス反応の優劣の特徴も関連していた。 4.CRH負荷テストを単独時に施行すると、優劣に差は認められないが、同居時には、優位に比べ劣位でACTHの分泌が低い傾向がみられた。 本研究では、二匹のサルの同居というストレス下で、優位サルは劣位サルと比べ下垂体-副腎皮質系の活性化が強く、また、この反応が血中テストステロン値と相関している可能性も示唆された。文献的には、劣位サルのストレス反応が高いとするものが多いが、本研究の条件下では、攻撃行動を伴わずに優劣関係が決定されている点が重要と考えられる。また、CRH負荷の実験からは、同居時の劣位での下垂体の反応の低下が、CRH分泌の減少のみによらない可能性が示唆された。
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