Fe原子のK吸収端で観察されたケミカルシフトを基に、Fe^<2+>とFe^3イオンの正確なX線異常散乱因子を求めた。吸収データからその散乱因子を得るために観測値を理論式へ代入する新しい方法を開発した。波長1.7415ÅではX線散乱能で2.5という非常に大きな差でもって両イオンを区別できることがわかり、X線の回折散乱法へ適用を試みた。 マグネタイト結晶のフェルベ-転移温度以上で観察される比熱異常領域に注目し、低温単結晶試料を放射光X線散漫散乱法で調べた。そして、X線では検出不可能と考えられていたファン散乱を観察することに成功した。その散漫散乱強度分布は中性子線データと類似しているが、伸長方向や非対称性において特徴的な差異がみられる。中性子が酸素変位を見るのに対し、本研究はFe^<2+>、Fe^<3+>イオンの直接観察を行なっている。結果から格子の歪みを伴う局所構造モデルを検討し、マグネタイトのホッピング伝導の部分的凍結や相転移前後での電子的秩序状態について考察した。 X線でイオンを明瞭に識別でき原子価状態の解析が可能であることがわかったので、マグネタイトのフェルベ-転移点以下でのX線回折実験の研究をスタートさせた。単結晶-単結晶転移を起こさせ新ブラッグ反射を検知するために磁場発生付属装置を作製した。これで外場をかけた単結晶実験が可能になった。また、他の遷移金属元素や希土類元素に対し吸収端でのXANES吸収測定を行なった。実験的なX線異常散乱因子を求めることで、他の混合原子価化合物での原子価揺動状態の研究が行なえる。
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