研究概要 |
Fe_3O_4は、Fe^<2+>イオンとFe^<3+>イオンとの速い電子交換で導電性(ホッピング伝導)を示すが、フェルヴェ転移(123K)以下では揺動が静止し電子的秩序状態になると考えられている。しかし低温での結晶構造については未解明な部分が多い。種々の結晶構造モデルが提案されてきているが、複雑な双晶を生成するため、観測強度データを完全に満足するモデルはまだ得られていない。そのため本研究では、今回開発した原子価コントラスト法を用い、Fe^<2+>イオンとFe^<3+>イオンとの間でX線散乱能に大きな差をつけることにより単結晶X線回折実験を行なった。 今回初めて、102Kでマグネタイト結晶を単結晶-単結晶転移させることに成功し、半周期の位置に超過ブラッグ反射を観測した。さらに対称性・回折強度分布等の解析から、斜方晶系(空間群 Cmcm)に属し、室温相の立方晶格子をa=2a_1+2a_2,b=-2a_1+2a_2,c=2a_3に変換する8倍格子の電荷秩序相であることが判明した。X線異常散乱因子が大きく異なるFeK吸収端近傍の2波長(1.7421Åと1.7488Å)の放射光X線を用い、積分反射強度を収集した。得られたX線回折強度のエネルギー依存性に着目し、規則配列を解析した。 一方、室温での電子密度の動径分布解析から、Fe_3O_4のAサイトがBサイトより0.46価程度イオン的であるとの結果を得た。この結果から、BサイトではFe^<2+>イオンとFe^<3+>イオンとが混在(原子価揺動)していることが推察でき、X線回折法によるホッピング状態の間接的な確認となった。
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