回折法と分光法を組み合わせ同原子種で価数の異なるイオンを区別することを目的に、原子価揺動を起こす遷移金属・希土類金属化合物を異常分散法で調べた。結果として、結晶内イオン分布、原子価状態が変化する転移、電子的秩序状態等について新しい知見が得られた。 吸収端近傍のXANES領域で観測される前吸収端構造やケミカルシフトから、遷移に対応した電子状態や酸化数の増加に伴う結合エネルギーの増加に関する知見が得られる。このようなある特定のエネルギーに注目し、電子状態の差をX線解折の手段で研究した。このとき、例えばFe^<2+>とFe^<3+>とでは、原子散乱因子の異常分散項fに差が生じ、散乱能(X線回折強度)の差から従来は不可能とされた価電子の差が識別できる。本研究では、観測吸収スペクトルから原子価ごとの異常分散項fを直接求めて「原子価差コントラスト法」を開発し、更に「原子価状態を探求する実験」を行なうことを目指した。 原子価揺動状態では、電気抵抗・磁化率その他の物性に特有の異常がみられる。研究では最初にマグネタイトFe_3O_4を手掛け、Fe^<2+>とFe^<3+>とのホッピング伝導の部分凍結やフェルベェ転移以下での電子的秩序状態を求めた。更に遷移金属酸化物やRuを含む希土類金属化合物に研究対象を拡張した。電荷配列の秩序パターンが非常に複雑な場合、中性子回折や核磁気共鳴からの情報のみでイオン配列に伴う結晶構造を決定することは困難である。本研究により、価電子の差をX線では区別できないという一般概念が打破でき、しかも本手法を従来のX線構造解析法に容易に取り込むことができたと考えている。
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