研究概要 |
本研究は,完全流体潤滑状態から混合潤滑状態にわたる油膜の形成と接触の機構を,フラクタル幾何学を用いた粗さの記述に基づいて統一的に解釈するための,理論的な足がかりを築くことを目的とし,実験と理論解析とから成る.実験では,蛍光顕微鏡を用いた摩擦面間の油膜と真実接触点の分布状態の測定,理論解析ではフラクタル接触理論と研究代表者の流体潤滑のモデルに基づいた混合潤滑の理論モデルの構築を行う.平成7年度は,主として実験手法の確立をめざした以下の研究を行った. 1.ラッピング,研削によって製作した等方性粗さおよび異方性粗さの微視的表面形状を測定し,フラクタル次元,相関距離,方向性パラメータなどを求めた.砥粒の種類とサイズを選ぶことによって,これらのパラメータをある程度コントロールできることがわかった. 2.鋼表面に腐食処理を施し面の反射率を下げることによって,蛍光顕微鏡による接触部の観察において,蛍光の自己干渉による規則的な強度変化をある程度取り除くことができ,数十nm以下の薄膜での蛍光強度を向上することができた. 3.蛍光画像をパーソナルコンピュータに取り込み,画像処理によって接触点と局所的膜厚の大まかな分布を求めるプログラムを作成した. 4.鋼球とガラスディスクの静的接触実験を行い,局所的な膜厚と接触面積の分布を調べた.見かけの弾性接触において,接触面積は荷重に比例しないこと,その関係は表面粗さの大小とともにそのスペクトル構造によって影響を受ける可能性があることがわかった. 5.流体潤滑の理論解析においては,研究代表者の流体潤滑の摂動法による解析とともに,フーリエフイルタ法により生成したフラクタル表面の疑似データを用いた直接数値解析を行い,摂動法により近似解の有効性を確認するとともに,表面の微細構造の油膜形成に及ぼす影響を検討した.
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