研究概要 |
昆虫は地球上で最も種類の多い動物で,全動物の7割程度を占めるといわれている.これらの昆虫は無限とも言えるような長い時間と資源の裏付けの基に,その組織や構成要素を進化させてきた.当該研究は,このような飛行昆虫の持つ飛行機能の全貌を機械工学的な立場から系統的に解明することを目的としている. 平成8年度の研究においては,前年度の研究において明らかとなった成果に基づいて,さらに深く研究を堀り進めた.すなわち,飛行する昆虫翼の持つ形態学的および航空力学的特性を明瞭にするために,走査型電子顕微鏡による観察を行った.その結果,多くの微視的構造が新たに明らかとなった.例えば,トンボ翼の結節の不連続性,縦脈および横脈に規則的に配列する突起物の構造,翼膜表面の構造が明瞭となった.トンボ翼に関しては3次元曲面形状計測も行い,翼表面の凹凸の状態などを明確にした.低乱風洞実験においては,トンボのはばたきの周波数変化およびはばたき変位の制御による生成速度変動特性などが明らかとなった.さらに,ハチなどの自由飛行における高速度ビデオ観察や精密騒音計による音響測定に基づいて,無響風洞を使用したハチのまわりの流れ特性などを明らかにした.昆虫は変温動物であり,飛行活動が周囲の温度に依存することから,サーモグラヒィーによる飛行時の体表温度分布なども測定し,はばたきに関与する筋肉運動に関しても研究を進めたが,この研究に関してはさらに時間が必要であり,今後の課題といえる. 本年度の研究において得られた成果は平成9年に開催される国際会議において発表すべく現在準備中である.研究の方向は,開始時に予想した以上に多岐に渡ったが,それだけ得られた成果も多い結果となった.
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