陽子線を利用したCTの試みを行った。X線CTがグローバルな量である透過X線量の測定と線吸収係数により断層面を表現するのに対し、本研究では透過陽子一個一個のエネルギーの測定と陽子のエネルギー損失により断層画像の表示を試み、ファントムを用いた実験により残留エネルギー法による陽子線CTが可能である事を示した。分解能は約0.3mmであった。本学加速器センターで可能な22MeV陽子ビームでは、物質中の飛程がミリメートルのオーダーで極めて短く、水入りのファントムの断層像を得ることは出来なかった。高エネルギーの陽子線がより広い測定のためには必要である。 粒子入射位置走査型ガスΔE-E検出器を開発した。エネルギー分解能、核子識別能、そして入射位置分解能ともに十分な性能を有し、陽子線CTの検出器として十分に機能することがわかった。 装置の開発に予定外の時間を費やしてしまった。その結果、本研究期間での陽子線CTの試みは本学の22MeV陽子線を用いた小型のファントムの断層像測定だけとなってしまった。現在、高エネルギー研究所の80MeV用子を用いた本格的実験の準備を進めており、更に大型のファントムによる陽子線CTの試みを行う予定となっている。 陽子線CTは陽子一個一個を測定する事からX線CTに比べ患者への被爆を小さく出来、また陽子線を微小径のビームに収束できる事からX線CTより優れた空間分解能を得られる。本研究期間では分解能が期待どおりである事がわかったが、その他の必要線量や測定時間等についても更に実験を積み重ね、データの蓄積と方式の確立を計っていく必要がある。
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