下水汚泥の安定化に用いられる嫌気性消化は、実務上、酸生成とメタン生成という二反応から成るとみなせる。本研究は、有機酸生成とpHの低下が可能なこの嫌気性酸生成反応に固液分離装置を組合わせ、汚泥を処理しながら重金属を除去する方法を実験的に検討した。実験は、10l完全混合型リアクター(運転温度30℃)を用いて回分および連続式で実施し、Hg、As、Cd、Cr、Cu、Ni、PbおよびZnを対象重金属とした。 実験の結果、Cd、NiとZnについてはpHをやや低下させることによって、AsについてはORPをやや上昇させることによって約50%あるいはそれ以上の溶出率が得られた。Hg、Cr、CuおよびPbについては常にそれより低い溶出率しか得られなかった。Crを除くと、この結果は硫化物と沈殿形成しやすい順に溶出されにくくなっていることを示している。なお、空気を吹き込むことによりORP制御を行うと、有機物が好気的に分解されてしまい、後段のメタン発酵に回される有機物が減少することが観察された。 一方、酸生成の分解物は、錯体形成によって重金属を化学平衡から計算される溶解性濃度より数桁も高く保つと考えられた。これは特に終沈汚泥(すなわち、余剰活性汚泥)について明確に現れ、遠心分離液中の重金属濃度と有機酸を除く有機物濃度の間に高い相関が見られた。 この酸生成を利用した汚泥処理改良法は、重金属除去を単独に行うより経済的にメリットがあると考えられる。今後、この研究をさらに発展させるためには、重金属と有機物の錯体形成、各重金属の挙動の相違など水質化学的側面の解明と有機酸生成を促進させる条件のより詳細な検討が課題であると思われる。
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