立花は、ストリングモデルにおける電子の能動的流れを、領域密度汎関数理論の立場から研究した。その根幹には、多成分量子力学的体系における領域化学ポテンシャル非相等性原理がある。これは、各部分系の間に量子力学的干渉効果が存在する以上、たとえ全系が平衡状態に到達したとしても、部分系の化学ポテンシャルは互いに等しくはならないことを数学的に証明した論理である。この論理を電子化学的平衡状態に適用すると、領域電子化学ポテンシャルの差が原子核の動きを引き起こす化学反応進行のドライビングフォースになることを結論することができる。このことを、いくつかのイオン-原子系において実証した。さらに、この領域化学ポテンシャル非相等性原理に基づく化学反応ダイナミクスの特徴を少数多体系の非線形動力学の観点から研究した。特に、分子振動のホロノミーから生じるゲージ場の量子化、電子状態と原子核の振動運動および全系の回転の相互作用に基づく幾何学的位相構造など、数値計算を援用し、トポロジー、ならびに微分幾何学的アプローチを活用し、古典力学的統計性と量子力学的統計性との関連を理論的に研究した。その具体的な数学的処方の一つとして、時間に依存する量子力学的運動方程式のポアソン構造を、あらたに'wave-packetrepresentation'として定式化し、領域化学ポテンシャル非相等性原理の動力学的特徴を明らかにする研究も始めている(以上、立花担当)。川内は、ストリングモデルを応用し、イオンが蛋白質や多糖類を水溶液中で擬析させる離液順列を検証するため、PVAやPVPのモデル低分子としてメタノール、N-メチルピロリドンを選び、Na+およびF-イオン/水クラスターとの相互作用をab initio量子化学計算により求めることを試みた。今後は、他のイオンの効果も含め、より精度の高い計算手法やより大きなスケールでのシミュレーションへ進めていく予定である。
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