低イオン強度下の分散液中でコロイド粒子がいわゆる「コロイド結晶」を形成することが知られているが、その構造性に関する知見は顕微鏡法や反射スペクトル法など限られた手法によるセルガラス壁面近傍の、しかも二次元情報に限られていた。そのため、構造形式のdriving forceと考えられる静電的相互作用の本質に関する議論、考察は、きわめて限られたものであった。本研究では、われわれが試作に成功した超小角X散乱装置(USAXS)を用いて、分散液内部におけるコロイド結晶の三次元構造に関する情報を得ることにより、コロイド間相互作用と構造の変化の詳細を調査することを試みた。 3カ年調査の初年度である本年は、コロイド結晶構造のイオン強度(添加塩濃度)依存性を詳細に調査した。その結果、USAXS曲線よりコロイド結晶は面心立方格子系であることが判明し、ピーク位置より計算した粒子間距離は、塩濃度増加にともない一旦増加したあと減少する傾向が観察された。従来の顕微鏡法による実験結果では単調減少する傾向が報告されており、またコロイド間相互作用の新旧理論であるDLVOおよび曽我見-伊勢の理論でも単調減少が示唆されており、USAXS法によってのみ可能であった全く新規な情報であり、従来のコロイド科学の常識を覆えすものである。同様の測定を種々の異なる電荷数、粒径を有するラテックス粒子に関して行ったところ、いずれの場合も粒子関距離の極大はκa(κ^<-1>: デバイ長、a:粒子半径)が約1.3のところに出現することが判明した。したがって、観察された減少は普遍的なものであることが確認された。また、散乱曲線のパラクリスタル理論による解析により、上述の粒子間距離の極大は構造性の見地からは固体状構造-液体状構造の転移に対応することが判明した。
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