研究概要 |
低イオン強度下において水分散液中で形成されるコロイド結晶構造とその変化を超小角X線および中性子散乱法(USAXS,USANS)により詳細に調査し、コロイド粒子間相互作用の本質について厳密な考察を行った。 超小角散乱曲線にブラックピークとして現れる粒子間距離の塩濃度依存性を系統的に調査したところ、塩濃度の現象にともないいったん増加し極大に達した後、減少する傾向を発見した。この実験事実は、従来の古典的および新規なコロイド間相互作用に関する理論では説明できない新たな発見である。この現象は、大きさ、荷電状態の異なる他のラテックス粒子に関しても確認され、普遍的現象であることが確認された。ブラッグピークの高さや形状をLindemann則やParacrystal理論により定量的に解析したところ、粒子間距離の極大は、固液相転移点に対応し、それより高塩濃度側で液体構造、低濃度側で固体様結晶構造となることが判明した。この相転移については、USANSによる温度変化実験によっても確認された。 今回に発見の中でも特に固体結晶状態での挙動、すなわち塩濃度減少に伴う粒子間距離の減少は従来の概念では説明できない、興味深い点である。このことは、少なくとも、従来考慮されていなかった新たな因子が、コロイド結晶形成に重要な役割を果たしていることを意味している。我々はこの新たな因子の可能性として(1)多体効果、および(2)カウンターイオンの速い運動性の寄与、を提唱した。(2)のカウンターイオンの効果に関しては別途動的光散乱実験によりその重要性が証明された。 さらに、大小、大きさの異なる二種類のラテックス粒子を混合した系についてUSANS実験を行ったところ、小さな粒子のみが結晶構造を形成するという、興味ある結果が得られた。このようなコロイド合金構造の解明もコロイド粒子間相互作用の解明において重要な意義を持っている。
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