研究概要 |
イネいもち病菌Magnaporthe griseaのイネへの侵入・感染行動は、抵抗性イネ品種上では、侵入菌糸の形成以降の段階が阻害されることから、侵入菌糸形成時に特異的に発現する遺伝子がいもち病菌の寄主特異性を決定する要因となっている可能性が高い。そこで、本研究では、M.griseaの侵入菌糸形成時に特異的に発現する遺伝子をクローニングし解析することを目的として、Differential display法を応用した実験を行った。 M.griseaの分生子を発芽させ、付着器あるいは侵入菌糸まで形成させた後、両菌体からTotal RNAを抽出し、Oligo(dT)-LatexによってmRNA分画を精製した。次いで、これらのmRNAを鋳型にしてcDNAを合成した後、このcDNAを鋳型に用いて、RAPD-PCRを行い、cDNA断片の多型性を比較した。その結果、3種のプライマー(5'-GATCACGTAC-3',5'-GCCCCGTTAGCA-3',5'-GCCAGATATATA-3')を用いた場合に各々1本ずつ、計3本(約200bp,1200bp,300bp)の侵入菌糸形成時に特異的と思われるcDNAバンドが検出された。 上記3種の特異的cDNAをクローニングし、その断片を塩基配列を決定した。その結果、193bpのcDNAクローンはmRNA分画に混在したと推定されるrRNA由来であることが示されたが、1187bpおよび296bpのcDNAクローンは内部にORFを含み、既知遺伝子とは相同性が低いことから、ユニークな遺伝子断片であると考えられた。特に1187bpのクローンでは、侵入菌糸まで形成している菌体の方が付着器まで形成している菌体に比べてそのシグナル強度が極めて強いことから、侵入菌糸に特異性の高いクローンであると推測された。
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