細胞接着は、がん細胞の接着、転移、白血球がひき起こす炎症に深く関連し、細胞の内外の情報伝達機構を明らかにする上で重要であり、また接着を阻害する物質の研究は、抗炎症剤・抗がん転移剤の開発の基礎となる。本研究は、これまでの細胞接着を阻害する多くの薬剤が脂溶性の低分子化合物であり、また、糖質が可能なあらゆる形の分子種として存在し、またその合成が可能となっているにも拘わらず研究が少ないことに着目し、細胞接着を阻害する新規な脂溶性糖質誘導体を探索し、その阻害機構を明らかにし、また、抗炎症作用や抗がん転移作用を調べることを目的とした。 用いられたスクリーニング法は、in vitroでは、好中球の血管内皮細胞およびKLHに対する接着の阻害、好中球の活性酸素生成阻害、および血管内皮細胞の接着分子ICAM-1等の発現阻害であるか、in vivoは、ラットの耳浮腫治癒効果テストなどを用いた。これらの試験に用いられる糖質誘導体は、合成標品や天然標品の単糖、オリゴ糖、および多糖誘導体約500種であり、濃度10^<-4>-10^<-6>Mにおける阻害活性を調べた。その結果、約7種の強い活性を有する糖質が見出され、その内、リボーストリベンゾエ-ト類3種についてTK-50と命名し、さらに詳しい研究を行った。 まず、TK-50の構造を、置換基、糖の基幹構造、脂溶性等の変換を行ったところベンジル基の有効性が証明され、つぎにアルドペントフラノース環(キシロ、アラビノ、リボ)が共通骨格として効果的であることがわかった。In vitroの活性として上記の抗炎症作用が示された。また、TK-50はすでに報告されていたトリベンジルグルコフラノシドとは異なった抗炎症作用を示すことが、起炎剤の種類を変えることによって明らかにされた。 つぎに、フィブロブラストやがん細胞HT1080の接着や浸潤阻害を調べたところ、強い活性を有することがわかった。一方、細胞毒性は、LDHやMTT法で調べた結果では、10^<-4>M以下では、細胞によって異なることがわかった。白血球、内皮細胞に対しては毒性がなかった。観察された細胞接着・浸潤阻害や接着分子発現阻害の作用機構については、現在のところ不明であるが、プロテインキナーゼ阻害、チューブリン(神経細胞)伸長阻害、メタロプロテアーゼ阻害は全く見られなかったことから、従来の多くの細胞接着阻害剤の作用機構とは異なり、細胞膜中の接着分子またはNADPHオキシダーゼへの影響か、redox制御に敏感なNF-kBなどの転写因子への影響ではないかと考察した。
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