研究概要 |
高等植物の細胞培養においても、哺乳動物の細胞培養と同様に活発な分裂している細胞の培養液(conditioned medium,CM)を低密度で培養し分裂しない細胞に加えると細胞分裂が誘導されることが知られている。CM中の細胞分裂誘導物質は、動物ではグロースファクターとして数多くの物質が知られているが、高等植物ではCM中の活性物質の化学的本体は、知られていなかった。この原因は、プロトプラストや培養細胞塊を使用した生物検定法にあると考え、我々は、非常に検出感度の高い生物検定法を確立した。すなわちアスパラガスの葉状茎は穏やかに磨砕するだけで単離葉肉細胞を遊離するのでこの系を生物検定法に使用した。アスパラガスの単離細胞は、ある一定以上の細胞密度では盛んに増殖するが、低密度ではほとんど増殖しない。しかしながら盛んに増殖している細胞のCMを与えると高密度の細胞と同様に増殖するようになる。アスパラガスのCMよりこの生物検定法を行いつつ種々のクロマトグラフィーを用いて活性物質を精製し、最終的にHPLCにより単一ピークを与えた。MSスペクトルなどの機器分析を使い活性物質の化学構造を推定して、さらに化学合成により構造の正しいことを確認した。この結果については現在投稿中である。本活性物質は、ナノモルレベルで細胞分裂誘導活性を示すことから、ここに世界で初めて高等植物のグロースファクターの化学的本体が明らかになった。今後本物質の抗体を作成し、他種の植物における普遍性や植物個体における分布などを研究していく予定である。
|