(1)「景域生態学」に立脚した、渓流環境の保全の基本理念について考察を加えた。種々の景観構造との関連において渓流環境を位置づけている。 (2)既往砂防工事の問題点を検討した。従来の砂防工事は非常に大きな規模の土砂移動現象を計画対象として、被害を抑制することを目的としており、より小さい土砂移動現象や平常時の渓流環境には関心が払われてこなかった点を指摘した。 (3)既往砂防工事が渓流環境に及ぼす影響について考察した。主要なものは以下の通りである。1)連続性の破壊、2)撹乱の抑制、3)空間の開放、4)環境の単調化、5)工事による強度の環境変化と生態系の除去。 (4)砂防工事の改良について基本的な方向性を検討した。ある程度の規模までの土砂移動・渓流の撹乱を、可能な限り許容するような砂防工事を目指すべきことを提唱した。 (5)既往砂防工事の影響評価に関連して、モデル流域として選定した。魚野川本流上流域、大源太川、登川等において環境の全体構造の変遷過程に関する調査を実施した。 (6)新たに、能生川をモデル流域として選定し、流路内の瀬と淵の分布と水理条件の関係、さらに生態的条件に関して種々の調査を行った。 (7)環境と調和した砂防工事のヨーロッパ・アルプス諸国における比較事例として、オーストリアの最新の施工事例を調査した。最近の顕著な傾向として、工事計画において計画流路の路線平面形状を出来る限り不規則で変化に富んだものとすること、また、工事材料に関してはコンクリートの使用が減少し、自然石と材木の使用が増加していることを指摘した。
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