1.研究の目的と成果:山村の過疎化に関する従来の研究のほとんどが「残された人びと」を対象とするものであったのに対して、本研究では林業労働者の集落である三重県海山町河内集落を対象として「残された人びと」とともに「出ていった人びと(流出者)」をも対象として研究を進めていこうとするものであった。それによって、定住の流出の両面から過疎化の分析を行うとともに、流出者のUターンの条件などから集落における定住化の方向性を探ろうとしたのである。調査の結果では、河内集落においては世代交代のなかで林業労働者集落からサラリーマン集落へ変化することによって、1980年代には過疎化が止まっていることがわかった。その原因としては、高度成長期以降に中・高等教育が普及し地元での雇用機会も増えたこと、交通の便が比較的良くなったこと、集落の共同活動が少ないためにサラリーマン化しても集落の運営が維持できたこと、そのようななかで高年層と中年層の「折り合い」が成立したことなどがあげられる。また、流出者においては、生活の要素のなかで、仕事や買物、娯楽については圧倒的に現住地の方を好んでいるが、環境や人情については河内集落の方を好んでおり、そのような傾向が強い県外居住者では過半数の人が条件次第でUターンを望んでいることがわかった。 2.研究の実施計画と実施結果:地域調査や集落調査は、ほぼ計画どおりに実施できた。しかし、流出者調査については、1986年の戸籍法改正によって挙家離村者の調査が事実上困難になるなどによって、不十分な点が残った。いっぽう、研究の過程では地域研究の成果などから関連分野の研究を進めることができた。 3.今後の課題:過疎化の研究については、過疎化の止まった集落と止まらない集落との比較研究や、流出者の調査における捕捉率向上の方法に関する検討などの課題が残されている。
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