この基盤研究(C)(2)「多現象同時測定による樹木生理機能の解析」は、単なる樹木葉の光合成機能評価ではなく、電子伝達、炭酸固定、光呼吸などの葉内代謝反応における電子やCO_2の流れ(流束)を定量的に測定する方法を開発し、植物の生理機能解析や生育管理など植物生産に広く応用できる葉内代謝反応のモニタリングシステムの構築を目的として行ったものである。 光合成エネルギー変換反応の定常状態における化学量論比、すなわち光合成が一定の速度で行われているときの電子伝達とH^+輸送の共役比(H^+/電子比)およびH^+輸送とATP合成の共役比(H^+/ATP比)は、光合成のエネルギー変換反応を理解する上で重要であるにもかかわらず、これまで全く研究されてこなかった。これは、反応にかかわる全ての物質の流束が一定となる条件(定常状態)においてチラコイド膜を流れる電子やH^+の数を測定する手段がなかったという理由による。 この研究では、上記のエネルギー変換反応の研究において電子の測定に用いた多現象同時測定技術を葉の測定に応用し、葉における電子およびCO_2の同時測定を試みた。2年間の研究により、樹木葉のチラコイド膜を流れる電子の流束(電子伝達速度)および光呼吸速度の測定法を確立した。このような測定により、樹木葉の光呼吸活性は非常に高いことを見出した。すなわち、樹木葉の光合成活性が草本植物と比較して極端に低いのは、樹木葉では光呼吸による電子消費量が大きいことに原因があることが明らかになった。また、この研究で開発した測定法は、葉から炭素固体酵素(RuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ)を単離することなく植物のRubisco活性を測定できるので、樹木葉の生理機能解析のみならず光合成の基礎研究にも応用できる有用な測定法であることが明らかとなった。
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