今年度は、ヒラメ・マダイ・クロダイの受精卵から発生中の胚細胞を解離し、in vitroでの培養の可能性を検討した。培地はL-15培地に15%の牛胎児血清を加えたものを基本培地とし、細菌やカビの増殖を防ぐために抗生物質と抗カビ剤を加えた。また、特に色素細胞の分化を促すためにACTHを培地中に加えた。他の培地を使用した実験は実施することが出来なかった。ヒラメの神経胚以降の胚細胞を用い、1ケ月程度の培養を継続した。この培養において、時間の経過に伴い2種の大きさの異なる色素細胞の分化を確認した。これらの色素細胞は、培養開始直後に発現してくるものが大型、培養開始後20日目〜1ケ月以後に出現してくるものが小型で、それらの大きさはヒラメの個体発生に伴って、仔魚期に出現する仔魚型色素細胞と、変態後に出現してくる成魚型色素細胞に一致した。従って、色素細胞の培養条件下での分化も、前駆細胞に何らかの体内時計的なものが組み込まれていることが示唆された。また、マダイ・クロダイではヒラメとは異なった形態の色素細胞が分化した。 また色素細胞以外には、培養初期に律動する心筋様の細胞塊が何カ所にも発現し、さらにそれらをつなぐ神経組織様のネットワークが構築された。 継時的な細胞分化の観察を顕微鏡ビデオシステムと画像解析装置によって行うことを試みているが、システムの構築に手間取り、未だに完成していない。また、周年実験材料を入手するために、淡水魚のタイリクバラタナゴの胚細胞を使用することも試みているが、卵の滅菌および大量に保有する卵黄の除去について問題があり、海産魚浮遊卵のような培養に成功していない。
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