人工皮膚の支持体として基底板の主要コラーゲンであるIV型コラーゲンの会合体を検討した。牛レンズカプセルとヒト胎盤から精製したIV型コラーゲンは一辺約18mmの網状構造からなる基底板に類似した構造を再構成し表皮細胞の支持体として有望であることが判った。 一方、基底板に局在するラミニンに現在11型まで報告されている。皮膚の基底板にはラミニン5型が特異的に分布していることから、ラミニン5が人工皮膚の基底板形成を促進する可能性がある。そこで人工皮膚とヌードマウスに移植した表皮細胞シートを用いてラミニン5の基底膜形成に及ぼす影響を検討した。人工皮膚はヒト線維芽細胞とI型コラーゲン細線維のゲル上に表皮細胞を播種し表面を空気に曝しながら培養した。こうして作成した人工皮膚は6ないし10層の重層扁平上皮を形成するも基底板はほとんど観察されない。しかしラミニン5を添加して培養すると、基底表皮細胞の基底面にしばしば基底板が観察された。形態計測の結果、ラミニン5を5μg/ml添加した場合は無添加の人工皮膚に比べて約3倍に、20μg/ml添加した場合は約6倍に基底板構造が観察された。また免疫電顕的に検索したところこれらの基底板にはラミニンI型、5型が分布し、構成蛋白質から判断しても基底板が形成されたことが明らかになった。 ラミニン5のin vivoでの効果を確かめるため、ヌードマウスの皮膚を皮筋層まで剥離した部位に培養表皮細胞のシートを移植した。ラミニン5(1.0μg/cm^2)を移植部位に添加したところ、移植後3日でラミニン5添加群では連続した基底板が表皮-真皮境界部に観察されたが、無添加群では基底板は観察されなかった。 これら結果により、ラミニン5は移植用皮膚の作成に、創傷治癒剤として有用であることが確認された。
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