研究概要 |
報告者により見いだされてきたアセチルCoA水解酵素は、諸種の生理条件下において,特に脂肪酸の酸化,合成両系において本酵素活性は著名に増加する。このような本酵素活性の動態より,本酵素が細胞質アセチル-CoAレベルやCoAプール維持に重要な生理的役割を担っている可能性についても明らかにした。更に,コレステロール代謝における役割について検討した。正常ラットに2%コレステロール含有食,又はHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるCS-514を投与すると,本酵素活性は,それぞれ約2倍に上昇した。しかし胆汁酸再吸収阻害剤であるコレスチラミン2%含有飼料を投与したところ,投与3〜4日目で正常レベルに回復した。一方ストレプトゾトシン投与7日目の糖尿病ラットにコレステロールないしはCS-514を投与すると,本酵素活性は,それぞれ約2倍に上昇した。この様に,本酵素はコレステロール代謝系においても重要な役割を担っていことが示唆された。 次いで,発癌過程肝における本酵素の挙動や,肝癌細胞での本酵素活性について検討した。ラット肝癌由来AH-130腹水癌細胞で本酵素活性は殆ど検出されなかった。更に,肝発症過程おける活性変化を検討する為,3'メチルDAB含有食をラットに投与した。本酵素活性は投与2週目で低下したが7週目では回復し,17週目から急激な低下傾向を示した。また17週目から見られた腫瘍結節部に於いて,活性は殆ど検出されなかた。一方非腫瘍部での活性は,初期には正常範囲であつたが,肝の90%以上が癌で占められると著名な低下傾向を示した。以上の結果から,発癌初期には本酵素レベルは一旦低下するが,すぐ代償機構により活性は回復し,腫瘍の増大と共に調節機構に破綻を来し低下すると考えられる。
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