研究概要 |
I)新精製法の開発:アセチルCoA水解酵素は、申請者により発見された酵素である。本酵素は抗高脂血症剤であるクロヒブレート投与により著明な酵素誘導をうける。さらに、室温ではATP非存在下では二量体、ATP存在下では四量体として存在するが、低温下(10℃以下)では可逆的に単量体に解離し、失活する。この2つの性質を利用し、本酵素の新しい精製法を開発した。その結果、この新しい精製法により従来よりさらに効率よく、電気泳動的に単一の酵素標品が得られた。 II)病態マーカー酵素としてのパターン解析:本酵素は、諸種の生理条件下において、特に脂肪酸の酸化,合成両系において本酵素活性は著明に増加する。まず、コレステロール代謝における役割について検討した。正常ラットに2%コレステロール含有食,又はHMG-CoAレダクターゼ阻害剤であるCS-514を投与すると,本酵素活性は,それぞれ約2倍に上昇した。しかし胆汁酸再吸収阻害剤であるコレスチラミン2%含有飼料を投与したところ,投与3〜4日目で正常レベルに回復した。一方ストレプトゾトシン投与7日目の糖尿病ラットにコレステロールないしはCS-514を投与すると,本酵素活性は,それぞれ約2倍に上昇した。次いで,発癌剤3'メチルDAB含有食をラットに投与した。本酵素活性は投与2週目で低下したが7週目では回復し,17週目から急激な低下傾向を示した。また17週目から見られた腫瘍結節部に於いて,活性は殆ど検出されなかった。一方非腫瘍部での活性は,初期には正常範囲であったが,肝の90%以上が癌で占められると著名な低下傾向を示した。以上の結果から,発癌初期には本酵素レベルは一旦低下するが,すぐ代償機構により活性は回復し,腫瘍の増大と共に調節機構に破綻を来し低下すると考えられる。
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