研究概要 |
今回の研究では主として各種抗癌剤耐性ヒト白血病細胞株とcisplatin耐性ヒト卵巣癌細胞株(TYK-R10)において各種核内転写因子や熱ショック蛋白などの核内での発現と耐性パタン-との検討を行った。AraC耐性ヒト白血病細胞株であるKY-RaをIL-1添加で培養すると一部の細胞はアポプトーシスに陥ることから、まずクローニングによりIL-1,TNFαに感受性のあるKY-Ra-Sを分離した。KY-Ra-SはIL-1やTNFαを培養液中に添加するとNF-kBの発現が見られ、最終的に細胞にアポプトーシスを誘導できたが、KY-RaやADRやVCR耐性細胞ではこの現象は見られなかった。また、既に報告されているが、KY-Ra、KF-19AraCなどでは通常の培養状態でAP-1,AP-2などの転写因子が発現されており、やはりAraC耐性にこれらの転写因子が重要な役割を果たしていると推測される。一方、TYK-R10では種々の熱ショック蛋白が多剤耐性に重要な役割を果たしていることを示したが、親株とは異なりAP-1やp53の発現が見られ、cisplatinこれら核内蛋白の役割も重要であることが推測されるが、現在までのところ正確な役割は明らかでない。これらの事実をふまえて、耐性解除効果を持つ種々の薬剤の効果と転写因子などの発現動態を見たところ、耐性解除効果とともに、pentoxyffirineにはAP-1やp53の発現抑制効果が、またcyclosporineAにはNF-kBの発現抑制効果があることがわかり転写因子をはじめとした核内蛋白の発現調節機構を標的とする薬剤耐性解除法の可能性が示された。以上から核内転写因子の発現状況の変化が薬剤耐性獲得とそれに付随する生物学的形質の変化に重要な役割をしていると思われるが、耐性になる薬剤により異なった因子が活性化されたり、また同時に数種の核内因子が作用する場合もあると考えられ、今後さらにその機序についての解析が必要である。
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