研究概要 |
平成8年度は種々の固定化剤が組織切片の自発蛍光にどのような影響を与えるかを調べた。具体的には、パナジルリボヌクレオシドcomplexを5mM含むPBSで環流しながら作成した凍結ブロックより組織切片を作成、アセトン、エタノール、メタノール、カルノア固定液、4%PFA,といった既存の固定化剤およびsulfo-SMCC,sulfo-SMPB,sulfo-SPBPといった架橋試薬による固定を行い、そのスペクトルを調べた。広いバンド域に関する情報を得たいため、400-440nmで励起し、800nmまでのスペクトルを調べた。免疫系にとり特に重要な器官である脾臓について調べた結果について述べると、 (1)エタノールとメタノールでの固定化は、類似した自発蛍光を与え、長波長側(630-760nm)で一つのピークの存在を示した。カルノア固定はそれよりもやや低い自発蛍光を生じさせるようである。 (2)SMCC,SMPB,SPBPでの固定化はいずれも類似した自発蛍光を生じさせ、必ずしも、予期したような低い自発蛍光を生ずるわけではない。この理由として、アミノ基、チオール基との特異的に結合し、架橋する架橋試薬は、蛋白質表面の官能基を標的とするのみならず、蛋白質内部のこれらの官能基と反応し、その立体構造に影響を与え、自発蛍光の増大を引き起こすものと考える。このような機序を考慮すると、PFAによる自発蛍光の増大の機序も、研究代表者が考えていたShlff試薬の形成というより、蛋白質の立体構造の変化とそれによる自発蛍光の増大によるものという可能性も考慮せざるを得ない。 いずれにしても、より精密なことを議論するために、サンプルとして、分離した均一な細胞を用い、厳密な画像解析を行うべきである。
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