研究概要 |
遊走性紅斑(EM)はライム病の初期病変の一つで,診断基準の一つになっている。しかしながら,なぜ世界の国々でEMの出現率が異なるのかという理由やその発病病理のメカニズムについて不明である。そこで,我々はEMマウスモデルを作製し,米国,ヨーロッパ,日本で分離された株による皮膚病変の違いを調べた。されに,その発病病理に血小板の活性化が関与するという仮説をたて,その可能性を検討した。 皮膚病変はライム病ボレリアを接種されたすべてのマウスで確認されたが,病変のサイズやタイプは菌主によって異なっていた。すなわち,B. burgdorfiri sensu strictoは接種部位を中心に円形の大きな出血を伴う紅斑を形成した。一方,B. garinii, B. afzeliiは不整形ないし散在性の紅斑を形成した。B. japonicaは小紅斑を誘導した。そこで,EMモデルを用いて皮膚病変の発現機序を検討した。病変形成に血小板が関与するかどうかを調べるためマウスPAF antaganistであるCV3988を投与した。CV3988投与マウスでは皮膚病変の形成は抑制された。このことは局所においてPAFを介した血小板の活性化がおこり,病変形成に関与したと考えられる。 ある種の細菌では菌自身がPAFを産生する。しかし,ライム病ボレリアはin vitroにおいて直接的に血小板を活性化しなかった。すなわち,血小板の活性化は他の宿主細胞由来のPAFを介したものと考えられた。そこで,血小板/好中球co-culture systemでの検討を行なった。このco-culture systemにおいてのみ,血小板の凝集が誘導された。また,この凝集はCV3988によってinhibitされた。さらに,好中球由来のPAFがcell-freeのものかmembrane-associateのものかを調べるため,あらかじめ好中球を菌体で刺激しその遠心上清を血小板に加えた。しかし,血小板凝集は起こらなかった。このことは,刺激を受けた好中球のmembrane-associate PAFによって血小板が活性化されることを示している。
|