1)狂犬病ウイルスの膜骨格撹乱作用とウイルス粒子形成 狂犬病ウイルスの膜蛋白質はERM(エズリン、ラディキシン、モエシン)と結合している。ERMとアクチン線維は協同して細胞膜の突起(マイクロビライなど)形成など、膜骨格成分として重要な働きをしている。狂犬病ウイルス感染培養細胞ではマイクロビライが消失し、代わって小胞構造が細胞表面に現われた。この現象はERMとアクチン繊維を中心とする膜骨格を乱す作用がウイルスに備わっていることを示す。では何故、宿主細胞の膜骨格を乱す必要があるのか。この意味を考えるために人為的にアクチン線維を壊してみた(サイトカラシンBを用いた)。すると、ウイルス形成は抑制されず、かえって促進されることが明かとなった。膜表面分子のあるものは膜直下の骨格成分により自由な動きを制限されているが、ウイルス膜蛋白質と雖この原理から逃れるものではない。そこで細胞膜上でのウイルス粒子集合過程の制限因子たる膜骨格構造を壊す必要性が考えられる。 2)狂犬病ウイルスに効率よく取り込まれる宿主(ハムスター細胞BHK)蛋白質の同定 ウイルスに効率よく取り込まれる2つの宿主蛋白質を解明した。興味あることに、いずれの蛋白質も感染にともない細胞表面での分布が大きく変化する。この観察はこれらの宿主蛋白質とウイルスの病原性との関係を考えるとき重要である。そのうちの一つは人間のCD99(MIC2遺伝子産物)と構造的によく似たハムスターの膜蛋白質であった。齧歯類ではCD99の存在は現在まで不明であった。CD99と宿主の感染防御機能との関わりを研究するうえでこの発見は重要である。もう一つは新規のものであった。
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