飲酒習慣が大腸がんの危険因子となっているか否かを明らかにするために、飲酒やその他の生活習慣に関する簡単な自記式のアンケート調査とアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の遺伝子型検査を併用した症例対照研究を行ってきた。平成7年度には奨励群200例(結腸:男84、女46、直腸:男49、女21)とその倍の数の対照群(外来非がん患者)につきアンケート調査を完了した。また症例群121例については末梢血DNAを用いたPCR法による遺伝子型検査も行ったが、(検査は阪大医学部環境医学教室に依頼)、対照群の遺伝子型検査は未着手である。これまでの結果を男性に限って述べると、結腸直腸がんともに、飲酒率自体は症例対照間の差は小さかった。しかし1回当たりの飲酒量でみると、非飲酒者に比べて日本酒換算で1合未満の群は有意にリスクは低いが、それ以上では飲酒量の多い群ほどリスクが高くなり、特に結腸がん群では傾向性のカイ2乗検定で有意となった。 ALDH2遺伝子型1/1、1/2、2/2の頻度は結腸がん群で52、42、6%、直腸がん群で70、28、2%となり、日本人一般集団の遺伝子頻度から計算した期待頻度56、38、6%と比較して、前者は1/2ヘテロ個体がやや多く、後者は1/1ホモ個体が有意に多かった。これらの結果は飲酒が結腸がんと直腸がんに対して、ALDH2遺伝子型との関連で、それぞれ違った機序で危険因子となっている事を示唆するものである。今後対照群についても遺伝子型検査が進行すれば、遺伝子型別の分析が可能となる。この他の生活習慣に関する予備的観察結果では、肉類摂取頻度が多いほど大腸がんのリスクが高く、特に結腸がんで有為な傾向性のカイ2乗値を得た。野菜果物の摂取頻度は大腸がんと強い関連を示さなかったが、男性直腸がん患者に根菜類の摂取の少ないものが多かった。
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