飲酒習慣が大腸がんの危険因子となっているか否かを明らかにするために、飲酒歴その他の生活習慣に関する自記式アンケート調査と末梢血DNAによるアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の遺伝子型検査を併用した症例対照研究を行った。症例群は大腸がん患者390人(結腸-男148、女95、直腸-男l00、女47)で、このうち210例(結腸124、直腸86)で遺伝子型検査を実施した。対照群は当院外来非がん患者821人(男385、女436)で、そのうち遺伝子型検査は91例(男50、女41)で実施した。アンケート調査の項目は飲酒歴、喫煙歴、食品群別摂取頻度、食事態度、生活環境等に関するものである。ALDH2遺伝子型は1/1ホモがアルコール高耐性、2/2ホモがアルコール非耐性で飲酒不可、1/2ヘテロはその中間型である。 単変量解析の結果、対照群に比べて結腸がん、直腸がんともに多量飲酒、肉類摂取頻度が高い、食事が不規則、大急ぎで食べる、腹一杯食べる等が有意な関連を示した。喫煙歴および野菜果物等の摂取頻度、ALDH2遺伝子型等は症例対照間の差が無かった。アンケート調査結果のみを用いた多変量解析の結果、結腸がんと直腸がんのどちらも、飲酒量、肉類摂取頻度、腹一杯食べるなどが有意な関連を示した。さらにALDH2遺伝子型を含めた多変量解析の結果では、結腸がんに対する飲酒量の関連が消えて、ALDH2遺伝子型が有意な関連を示し、アルコール非耐性形質が何らかの役割を果たしていることが推測された。また肉類摂取の関連も消えて、食事の不規則や腹一杯食べるなどの関連がが有意水準に近かった。直腸がんに対しても上記要因の関連が認められなくなった。症例数が少ないためであろうと考えられる。 以上の結果、飲酒が大腸がんの危険因子であり、特に結腸がんに対してはALDH2へテロ個体の飲酒が高危険となるものと結論される。
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