職業性肺繊維症の原因物質として、アスベスト、コバルト、綿繊維、グラファイト、及びタルクなどが挙げられる。最近これら物質による、肺繊維症の進行および形成過程において、肺組織での血液凝固系の活性化と、血管内皮組胞の障害とによるフィブリンの沈着の重要性が指摘されている。フィブリンは繊維芽組胞の増殖を抑制する細胞外マトリックスの一成分として、組織の繊維化に密接に関係しているし、また白血球による炎症反応の増幅にも深く関与している。 ところで、アスベストやcotton brast tanninなど一部のfibrogenic dustは血管内皮細胞の障害を引き起こすことが病理学的には証明されているが、これらの物質が血管内皮細胞の持つ凝血作用にどのような影響を与えるかについてはほとんど検討されていない。そこで本研究では、ヒトの血管内皮細胞を用いて、種々のfibrogenic dustの血管内皮細胞に対する細胞毒性及び血液凝固関連因子の生合成能に与える影響について調べ、職業性肺繊維症形成における血管内皮組胞の凝血(抗凝血)機能の役割の解明を目的としている。 平成7年度において血管内皮組胞をアスベストで処理することにより、アスベストの濃度あるいはアスベストでの処理時間に依存する形で、血管内皮組胞のDNA合成及びタンパク質合成の促進が観察された. 平成8年度ではfibrogenic dustが引き起こす血管内皮細胞のタンパク質合成及びDNA合成の促進がどのような特定の遺伝子(血液凝固系因子)の発現変化と関わっているかについて調べるため、血管内皮細胞が産生する血液凝固関連タンパク質としてthrombomodulin(TM)の、活性および抗原量を合成基質及びモノクローナル抗体を用いて測定した。その結果、fibrogenic dustの濃度及び処理時間に依存する形で、TMの活性および抗原量の増大が観察された。
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