今回の研究では、ふたつの自己免疫疾患、多発性硬化症およびブドウ膜炎の動物モデルであるラット実験的自己免疫性脳脊髄炎および実験的自己免疫性ブドウ膜炎を対象とした。まず、それぞれの疾患を惹起するミエリン塩基性蛋白と網膜S抗原のエピトープ部分をコードする遺伝子をサイトメガロウイルスIE遺伝子のプロモーターをもつ蛋白発現ベクターに組み込んだ。さらに、この遺伝子の末尾にGM-CSFをコードする遺伝子を挿入した(GM-CSF遺伝子テ-ル)ベクターを作成した。 これらを用いた遺伝子免疫の結果、抗原遺伝子のみでもGM-CSFと抗原遺伝子ともに免疫した場合もラットに疾病の発症は認められなかった。しかも免疫した自己抗原に対する抗体の産生も認められず、生体は非自己蛋白遺伝子による遺伝子免疫の場合と異なり、自己抗原遺伝子による遺伝子免疫に耐性で抗体を産生することはなく自己成分に対する寛容を保持することが明らかとなった。そこで、発現蛋白量を増加させるために前述の遺伝子をラット線維芽細胞に遺伝子導入し、ex vivoで増殖させてから遺伝子導入した。その結果、GM-CSFを含む遺伝子導入でのみ自己抗原に対する抗体が産生され、サイトカイン遺伝子テ-ルにより自己免疫現象を修飾出来ることが明らかとなった。 一方、基礎実験により遺伝子免疫用にプラスミドDNAを大腸菌を用いて大量作成・精製する際に、リポポリサッカライドが混入するとそれだけでラット実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症が抑制されることが明らかとなり、遺伝子免疫研究で特別な注意が必要であることが明らかにされた。
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