今までにアフタ様病変を有するCrohn病症例10例につき解析を行った.うち2例はazathioprineまたはprednisoloneを投与されており、残り8例は免疫抑制剤の投与を受けていなかった.内視鏡下に生検を行い、TCRのRNAにつきSSCP法により解析した.その結果、以下のような所見がえられた. 1)免疫抑制剤投与中の症例ではどのサンプルについてもTCRのclonal expansionはみられなかった. 2)免疫抑制剤投与中でない症例ではTCRのclonal expansionがみられた.以下はこれらについての所見である. 3)内視鏡で炎症の見られない部位では若干のclonal expansionがみられた.これは正常人の腸粘膜でも見られる所見である. 4)アフタ様病変部には、よりはっきりしたclonal expansionがみられた. 5)同一症例では、異なるアフタからの標本が極めて類似したTCRのclonalityを示した. 6)異なる症例では、それらcloneのVbは異なっていた. 7)大きな潰瘍に進んだ病変部からの標本では、より多くのcloneがみられた. 8)これらcloneの中には、アフタ様病変部だけにみられるもの、アフタと潰瘍部だけにみられるもの、潰瘍部だけにみられるものなどが認められた. 9)アフタだけにみられるものは発病の初期のT細胞応答を反映している可能性が高いと考えられた. 10)病変部に特異的なこれらのcloneのCDR3領域のアミノ酸配列を調べてみたが、共通の抗原を示唆する所見はなかった. 以上より、確かにCrohn病の初期病変に特異的なT細胞cloneが存在することが確かめられた.これは他のヒトの自己免疫性疾患においては得られていない知見である.
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